01 空腹サクラの場合
02 嫌悪マリの場合
03 冒険イチルの場合
04 欲情ネネの場合
05 我儘コトハの場合
06 秀才シズクの場合
07 千夜子の場合
※重大なネタバレを含みます。
千夜子の場合
※このエピソードは「セヴンデイズ あなたとすごす七日間」ゲーム本編の重大なネタバレを含んでいます。
昔から、長い休みになると祖父母の家を訪れるのがうちの習慣だった。
祖父母の家は人里離れた山奥にあって、とても静かなところだ。
祖父は研究者らしく、少し変わった人で、日がな部屋に閉じこもっては研究と称して顔を出すことはなかった。小さかった私にはよくわからなかったが、両親からは「仕事だから近寄るな」とだけ言い付けられていた。祖母は手厚くしてくれたが、祖父は私に見向きもしなかった。そもそも、祖父の姿を見ることすら珍しかった。
一度、祖母が大量の食事を運んでいるのを見た。それをどうするのか尋ねると、閉じこもっている時、おじいちゃんはよく食べるのと、祖母は決まって微笑んだ。そうとは言え、尋常ではない量だった。
祖父がそれを平らげる様子を見たくてついていこうとしたが、その渡り廊下から先は近づいてはいけないと、祖母に歩みを止められた。祖父は、仕事の邪魔をされるとひどく怒るらしい。
結局私は、祖父が何者なのか知らぬままでいた。
まだ小学生になって間もない頃、珍しく父と母が喧嘩をした。あなたのお父さんはおかしいとか、千夜子は自由にはさせないとか、母は父に向かって怒鳴っていたが、父は聞く耳を持たなかった。ちょうどそれを境に体調が急変した母は、やがて他界した。
お母さんは病気だったんだ。父はそう言って、私も同じ病気なんだと告げた。
それからまもなくして、私は車に乗せられていた。6月の終わりの頃だった。
父は祖父母の家へ行くのだと言った。祖父が私の病気を治せるらしい。毎年祖父母の家を訪れるのは夏休みだったから、少し不思議な感じだった。
学校は、と訊くと、病気だから行かなくていいと返された。平日に学校を休んでどこかへ行くのは特別な気がして、それ以上は聞かなかった。
都会を外れ、景色が田舎へ変わっていくと、夏の匂いがした。車は村落を抜けて山道を走った。祖父母の家へ向かう山道はいつもガタガタと揺れて、それがまた懐かしかった。
祖父母の家へ行くと、いつもとはちがうことに私は驚いた。出迎えてくれた祖母の隣に、白衣の男性が立っていた。日に当たっていないような肌の白さで、白髪混じりの黒髪。
それが祖父だった。直射日光の下で照らされたその肌の血色のなさは、とても不気味に思えた。
車を降りると、千夜子の好きな甘いお茶があるからねと祖母が手を引いてくれた。スイカは、と訊ねると、あと半月もすれば食べられると言われた。私は祖父母の家に来た時の、裏の井戸で冷やしたスイカが大好物だった。
ふと振り返ると、祖父が父に封筒を渡しているのが見えた。祖父も父も実の親子なのに、どこか他人のようなやりとりだった。奇妙な光景を尻目に見つつも、いつものように家に上がった。
そして、その日のうちに、私はその小屋に連れてこられた。
病気を、治すために。